2014年01月17日に取得しました。今回のコラムは特許取得の理由や、取得に至るまでの経緯などを書きたいと思います 。
特許を取得した理由
ソフトウェアを開発して、製品として販売するにあたり知的財産権は極めて重要な意味を持ちます。TALONもソフトウェア製品ですので、他製品同様に知的財産権は重要と考えています。特許取得の狙いは以下の通りです。
- 訴訟リスクに備える防御として
- 他社にコンセプトやソースコードを流用されるのを防ぐため
- 製品の宣伝用途として
- 知的財産のノウハウ集積のため
企業が特許を取得する理由はほとんどの場合上記の1~3になると思いますので4以外はそれほど変わった点はありません。
1に関してはある程度ビジネスが軌道に乗った時に特許権侵害で訴えられてしまうと非常に厳しい状況に追い込まれます。こちらも特許を持っておくことで、そのような訴えが発生した場合もクロスライセンスなどの道を探すことが可能になります。今回取得した特許はTALONの構成上根幹をなす内容になりますので、今後特許権侵害で訴えられる可能性はかなり低くなったと考えています。それでも細かな部分ではどのような訴えがあるか分かりませんので、完全に安心ではありませんが。
2に関しては資金力のある企業がコンセプトをそのまま流用した製品を作って販売された時に特許で守られていないと泣き寝入りせざるを得ない状況になってしまいます(ソースコードを盗まれたりして流用された場合は別ですが、あくまでコンセプトだけであれば製品を隅々まで動かせばどのような作りをしているか想像出来ますので、類似品を作れてしまいます)。そのような時に特許を取得しておくことでこちらの権利であることを主張出来ます。
3に関しては現在、TALONは販売を開始したばかりで、認知度が低いことが課題です。特許を取得する事で認知度が上がるわけではありませんが、少なくとも製品に特許取得の要件である新規性と進歩性が含まれていることが証明されますのでイメージ向上には役立つと考えています。
4に関しては私たちが、これまで製品の販売ではなく、個別企業へのSIビジネスを行ってきている関係で、知的財産に関する知識やノウハウがあまり備わっていませんでした。そこで、弁理士の先生に丸投げするのではなく、自分で直接特許請求書を作って弁理士の先生に相談をしながら進めるという形を取り、特許とは実際はどのような物なのかを知り、今後のビジネス展開においてどのような知財戦略を取るべきかを決めるために必要だと考えました。
特許の概要
今回取得した特許の概要は、概ね以下のような内容です。(詳しくは特許庁のホームページで検索できるようになりますのでそちらで確認ください。)
- 機能構築用の設定画面でデータベースアクセスを行う情報を設定して、設定保存用データベースに格納して、その設定保存用データベースから情報を読み込むことで、画面を自動生成し、データベースの参照・登録・更新・削除を行える機能を提供する。
他にも、作られた画面を利用者が自由に表示項目を変更する事が出来る機能など、合計6つの請求項を取得しています。
TALONのコンセプトは、「ノンプログラミングでWEB画面による設定だけで業務システムを自動生成する」という物ですので根本部分の取得となりました。
特許取得の経緯
以前中小企業診断士資格を取得する際に特許権、および知的財産権について一通り学びましたが非常に浅いレベルの知識で、正直に言って知財戦略を立てられるようなレベルではありませんでした。そこで弁理士の先生に丸投げせずに自分たちで特許請求資料を作ってみようと考えました(費用を抑えたいというのも理由としてはもちろんありましたが。。)
まず、特許権に関する書籍を数冊読んで基本を学び、その後にソフトウェア特許に関する書籍を読み、ソフトウェア特許の特徴を知りました。そして、発明協会が中小企業向けに行っている支援で、弁理士の先生による無料相談を受けました。この無料相談はこのような特許を取りたいがどのようにすれべよいかという相談を受けてくれて、助言もしてもらえるという内容です。1発明内容に対して数回の相談が可能になっています。中小企業で特許を取得したいと考えている企業は是非利用すると良いと思います。これにより自力での取得も可能です。
無料相談で、既存特許の検索方法を教わり、ひたすらTALONに類似する特許は無いかなどを調べました。ここで類似した特許が存在する場合は取得できないことはもちろん、下手をすると訴訟リスクに即繋がりかねない為に結構ヒヤヒヤしていました。幸い類似の特許は見当たらなかったので本格的に取得に向けて動き始めました。
ちなみに余談ですが既存特許を調べてみると業務システム開発で使いそうなソフトウェア特許は出願のみの物も取得済みの物も圧倒的に大手ITメーカが多いです。これはちょっとびっくりするぐらい有名な会社ばかりです。発明協会の方や弁理士の先生がおっしゃっていましたがソフトウェア特許は他の特許と違い、かなり特殊で取得が結構大変なので、法務部門がある大手企業の取得がほとんどで、中小企業は取得を断念してしまう事が多いとの事でした。この事実を知った時にはちょっとひるみましたが、同時になおさら取得しないと、という気持ちにもなりました。大手は資本と知名度を使ったビジネスが出来る上に、知財戦略上も有利に立っているのでは中小企業に勝ち目はありませんので。
特許を申請するにあたってメインとなる作成資料は、「特許請求の範囲」「明細書」の2つです。この中身で全てが決まります。特許権としては、特許請求の範囲に書いてあるものが全てとなります。ここに書いていない内容は権利を全く主張出来ません。資料のイメージとしては特許請求の範囲が概要で、明細書がその発明の詳細な内容になるのですが実際は違います。
無料相談は資料を作成してもらうことはNGで、あくまで相談に乗っていただくという所のみなので、発明の中身を資料に記して、ある程度できたところで相談に乗ってもらい、書き方のコツや上手い特許の取り方などを教えて頂きました。
その中で非常に勉強になったのは、「特許請求は一度は拒絶審査を受けた方が良い」という物です。特許は申請すると審査員の方が内容を確認して、新規性と進歩性があり、産業の役に立つ発明かを判断します。そこですべての要件を満たしていれば晴れて特許取得となるのですが、あえて一度拒絶を受けた方が良いというのは、特許請求を出来る限り広い範囲(細かな条件が無い状態)で請求して、どこまで取得できるかを探っていくためです。
その為、明細書には細かく書いておき、特許請求の範囲には非常に広い範囲、つまり細かな条件のついていない発明として請求し、拒絶されたら、少しづつ細かな条件を付けていきます。細かな条件が付いていない特許権の方が当然幅広く使う事が出来ますので価値が高いためです。
今回TALONで取得した特許もこのアドバイスに従い、広い範囲で請求し、拒絶を受けて、条件を付与して手続補正を行いました。また、一つの請求項に纏めて請求せずに、複数の請求項に分割して請求する事でそれぞれ単独の特許権として使えるので使い勝手が良くなるというアドバイスもいただきましたので、請求項を分割しました。
このような経緯を経て、無事に特許取得に至りました。TALONの知財戦略における心臓部になる物ですので、今後、存在感を示せるツールになって、特許が無駄にならないよう頑張ります。
それでは今回はこの辺で。
文=古関 雄介